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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)8274号 判決

原告

(昭和四七年(ワ)第八二七四号事件被告)

藤ノ木一郎

右訴訟代理人

五十嵐岩男

被告

帝都自動車交通株式会社

右代表者

須賀清

右訴訟代理人

大原誠三郎

右復訴訟代理人

笠原俊也

参加人

(昭和四七年(ワ)第八二七四号事件原告)

片倉盛秋

右同

大須賀三郎

右参加人両名訴訟代理人

和田栄一

主文

被告会社は原告(昭和四七年(ワ)第八二七四号事件被告)藤ノ木一郎に対し、被告会社の昭和四五年四月三〇日付取締役会における増資決議により発行した新株式四〇〇万株のうち、一万五六八〇株の株券の引渡をせよ。

被告会社は原告(昭和四七年(ワ)第八二七四号事件被告)藤ノ木一郎に対し、金三万九九八四円およびこれに対する昭和四六年六月一日から右完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。原告(昭和四七年(ワ)第八二七四号事件被告)藤ノ木一郎のその余の請求を棄却する。

原告(昭和四七年(ワ)第八二七四号事件被告)藤ノ木一郎は、参加人(昭和四七年(ワ)第八二七四号原告)片倉盛秋に対し別紙目録(一)記載の被告会社の記名株式一万三五二〇株の株券を、参加人(昭和四七年(ワ)第八二七四号原告)大須賀三郎に対し別紙(二)記載の被告会社の記名株式一万株の株券の引渡をせよ。

参加人(昭和四七年(ワ)第八二七四号事件原告)のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告(昭和四七年(ワ)第八二七四号被告)藤ノ木一郎と参加人(昭和四七年(ワ)第八二七四号原告)片倉盛秋および同大須賀三郎との間に生じたものは三分して、その二を右原告の負担、その余を参加人らの負担とし、右原告と被告会社間に生じたものは被告会社の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告(昭和四七年(ワ)第八二七四号事件被告)藤ノ木一郎(以下原告藤ノ木と略称)の申立

(一)  主文第一項同旨および「被告会社は原告藤ノ木に対し金九万九九六〇円およびこれに対する昭和四六年六月一日から右完済まで年六分の割合による金員の支払をせよ」「訴訟費用は被告会社の負担とする」との判決および仮執行の宣言を求めた。

(二)  「参加人(昭和四七年(ワ)第八二七四号事件原告)片倉盛秋および同大須賀三郎の各請求を棄却する」。「訴訟費用は右参加人らの負担とする」との判決を求めた。

二  被告会社の申立

「原告の請求を棄却する」「訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求めた。

三  参加人(昭和四七年(ワ)第八二七四号事件原告)片倉盛秋および同大須賀三郎(以下参加人片倉および同大須賀と略称する)の申立

主文四項と同旨および「原告藤ノ木と参加人片倉および同大須賀との間において、被告会社の昭和四五年四月三〇日付取締役会における増資決議に基づき発行された新株式四〇〇万株のうち、参加人片倉が被告会社に対し九〇一四株の株券引渡請求権を、参加人大須賀が被告会社に対し六六六六株の株券引渡請求権を有することを確認する」「訴訟費用は原告藤ノ木の負担とする」との判決を求めた。

第二  当事者の主張

1  原告藤ノ木の被告会社に対する主張

一  原告藤ノ木の請求原因

(一) 原告藤ノ木は昭和一四年三月二〇日から同四四年六月二六日まで被告会社に従業員として勤務していたが、その間に被告会社の株式二万三五二〇株を取得し、所有するに至つた。

(二) 被告会社は昭和四五年四月三〇日開催の取締役会において、四〇〇万株を増資し、従来の株主に対し所有株式三株につき新株二株の割合で割当てる旨の決議をした。

原告藤ノ木は、被告会社から前記所有株に対して新株式一万五六八〇株の割当を受け、その申込期日である昭和四五年八月二〇日内に右引受の申込をし、同年八月一七日その代金七八万四〇〇〇円を払込んだ。

(三) しかるに、被告会社は原告藤ノ木に対し割当を受けた右新株の株券を発行交付しないので、原告藤ノ木は被告会社に対し右株券の発行交付を求める。

(四) しかして、原告藤ノ木は前記新株を取得した結果、被告会社の株式三万九二〇〇株を所有するに至つたのであるから昭和四五年一〇月一日から同四六年三月三一日間の株式配当金である一株につき三円(昭和四六年五月二八日定時株主主総会の配当決議)の割合による右株式の配当金を受領する権利を取得した。したがつて、原告藤ノ木は被告会社に対し右配当金から一五パーセントの税金を差引いた残額九万五五六〇円およびこれに対する右総会決議後である昭和四六年六月一日から右完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の答弁

(一) 原告の請求原因(一)および(二)記載の事実は認める。

(二) 同(三)記載の事実は認めるが、その主張は争う。

(三) 同(四)記載の事実中、原告主張の日に原告が被告会社の株式を所有していたことを否認し、その余の事実は認め、その主張は争う。

三  被告会社の抗弁

原告所有の被告会社株式二万三五二〇株は、次のとおり被告会社が本件新株の割当前において、すでに参加人片倉および同大須賀らに譲渡されていたので、原告が本件新株の割当を受けそれを取得するいわれはない。

(一) 被告会社においては、その発行済株式数の三割にあたる従業員の持株については昭和二二年以来従業員株主間で帝都自動車株主代理委員会を構成して委員を選出し、右委員会と各株主間において、従業員株主が被告会社を退職する時には従業員として取得した株式を同委員会の指定する他の在職従業員に対し一株当り五五円で譲渡する旨の契約がなされている。

(二) そして、原告藤ノ木も被告会社の従業員として右委員会との間に右契約をなしそれに基づき、先に退職した十数名の従業員から右委員会の指名を受けて、一株当り五五円でその所有株二万三五二〇株を取得するに至つたものであるから、自己が被告会社を退職する場合には右契約により右委員会の指名する在職従業員に一株当り五五円で譲渡する義務がある。

(三) そこで、右代理委員会は、原告藤ノ木が昭和四四年六月二六日被告会社を退職したので、原告藤ノ木に対し昭和四四年八月二六日その所有株二万三五二〇株につき、被告会社の在籍従業員である参加人片倉に対し別紙株式目録(一)記載の一万三五二〇株、同じく参加人大須賀に対し別紙株式目録(二)記載の一万株を各譲渡するよう通知し、他方、右参加人らも原告藤ノ木に対し同月二七日右株式を買受ける旨の意思表示をなした。

(四) しかるに、原告藤ノ木は右株式の譲渡には異存がないがその売却価額一株につき五五円につき不満があるとして株券の引渡を拒んだため、右参加人らが被告会社の株主名簿の名義書換のできないでいたところ、被告会社が昭和四五年四月三〇日取締役会において原告藤ノ木主張どおりの増資決議をなし、その新株の割当につき、誤つて、名義株主である原告藤ノ木に対し本件新株の割当通知をし、原告において右申込および払込を了したものである。

四  被告会社の抗弁に対する原告藤ノ木の答弁

(一) 抗弁(一)(二)記載の事実を否認する。

(二) 同(三)記載の事実中、原告藤ノ木が被告会社を退職したこと、原告所有の株式につき株主代理委員会から原告藤ノ木に対し参加人片倉および大須賀を譲受人として指名したこと、右参加人らより原告に対し右株式の買受の意思表示がなされたことは認める。

同(四)記載の事実中、原告藤ノ木がその所有株式の譲渡を拒んだため、参加人片倉および同大須賀らが被告会社の株主名簿における名義書換をすることのできなかつたことおよび原告藤ノ木に本件新株の割当がなされ払込をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

五  被告会社の抗弁に対する原告藤ノ木の主張

仮に、株主代理委員会と原告藤ノ木との間に被告会社主張のような株式譲渡に関する契約があるとしても、次の理由からして本件新株が参加人片倉および同大須賀の所有に帰するいわれはない。

(一) まず、右株主代理委員会は法人格を有しないので、同会と原告藤ノ木間の右契約は権利および行為能力を欠くものとの間になしたものとして無効である。

(二) 次に、仮にそうでないとしても右契約は株式譲渡の自由を規定した商法二〇四条に違反するものであるから無効である。

(三) 仮に、右契約が有効であるとしても、株式の移転には株券の交付を必要とするのに、原告藤ノ木は参加人らに対し右株式につき株券の引渡をしていないから、参加人らが右株式に関する権利を取得するいわれはない。

2  参加人片倉および大須賀の原告藤ノ木に対する主張

一  参加人片倉および大須賀の請求原因および参加理由

前記1原告藤ノ木の被告会社に対する主張等の三被告の抗弁に記載の(一)ないし(四)の事実の外に次の事実を加える。

(一) そこで、参加人片倉および同大須賀は原告藤ノ木が受領を拒絶するため昭和四五年一一月六日右原告に対し次のとおり弁済供託をした。

(イ) 参加人片倉分

譲受株代金    新株代金

七四万三六〇〇円 四五万〇七〇〇円

(一株当り金五五円)(一株当り金五〇円)

(ロ) 参加人大須賀分

譲受株代金    新株代金

五五万円 三三万三三〇〇円

(一株当り金五五円)(一株当り金五〇円)

(二) したがつて、参加人片倉は原告藤ノ木に対し被告会社発行の別紙株式目録(一)記載の旧株一万三五五二〇株の株券の、参加人大須賀は原告藤ノ木に対し被告会社発行の別紙目録(二)記載の旧株一万株の株券の引渡を求め、かつ、右参加人両名と原告藤ノ木間において、参加人片倉が被告会社に新株九〇一四株の株券引渡請求権を、参加人大須賀が被告会社に新株六六六六株の株券引渡請求権を有することの確認を求める。

二  請求原因等に対する原告藤ノ木の答弁

前記1原告藤ノ木の被告会社に対する主張等の四被告会社の抗弁に対する原告藤ノ木の答弁記載の外に次の答弁を加える。

請求理由(一)記載の事実を否認し、同(二)記載の主張は争う。

三  請求原因等に対する原告藤ノ木の主張

前記1原告藤ノ木の被告会社に対する主張等の五被告会社の抗弁に対する原告藤ノ木の主張に記載のとおり主張した。

第三  証拠〈略〉

理由

一原告藤ノ木の請求原因(一)ないし(三)記載の事実は原告と被告会社間に争いがない。

そこで以下、これに対する被告会社の抗弁および参加人らの請求原因等について考える。

二(参加人らの旧株券交付請求に対する判断)

(一)  〈証拠〉によると次の事実を認めることができる。

(1)  被告会社労働組合は、昭和二二年六月二一日京成電鉄株式会社から被告会社の全株式の三割にあたる五万四〇〇〇株を被告会社の従業員の持株とする条件で、一株当り五五円で譲受け、その頃組合員に対し右株式を一株当り五五円で分配譲渡したが、その際、右従業員持株制度を維持運営するために株主代理委員会を結成した。右委員会の構成は右株式を譲受けた組合員全員からの選出者として、組合委員長に被告会社労働組合の執行委員長が、委員に同組合の各支部の支部長があたり、その主たる職務は、同委員会から被告会社に三名の取締役を推挙して、同社の経営に組合の意向を反影させることと、右組合員所有の株式が他に流出し従業員持株制度が破綻することを避けるため、委員会が、各組合員株主との間において、当該組合員が退職、またはその所有株を他に売却を希望するときには、右株式が同組合若しくは委員会を介して取得したもの(その後の増資分を含む)については同委員会若しくは委員会の指名する他の在職従業員に一株当り取得価額と同じ五五円で譲渡する旨の契約を締結し、その履行を確保することにあつた。

ところで、その後の右委員会の構成は、組合員であつたものが、被告会社の管理職や経営者に昇進し、被告会社労働組合を脱退せざるをえないものも現われるに至り、持株制度を組合員のみに限定することは右株の他への流出を防ぎえない状態となつたこともあつて、昭和三八年五月一日委員会の構成員に経営陣も含めることとなり、その結果委員長は従来と同じく労組委員長があたつたが、委員としては同組合支部長と労組三役の外に、新たに経営者側としての委員三名、次長課長から二名、所長責任者から三名の割合で選出されることとなつた。

(2)  原告藤ノ木は被告会社の従業員であり、右代理委員会との間に前項の株式譲渡の契約をしたため、これに基づき右委員会の指名を受けて、昭和三〇年一二月一七日から同四三年一月二九日までに先に退職した宮沢達吉外十数名の従業員から十数回にわけて一株当り五五円の割合で株式の譲渡を受け、これに対する増資分を含めて、二万三五二〇株を取得するに至つたものであるが、昭和四四年六月二六日被告会社を停年退職したので、右代理委員会が原告藤ノ木に対して、右契約に基づき同年八月二五日付書面をもつてその所有株二万三五二〇株につき、被告会社の在籍従業員である参加人片倉盛秋に対し、別紙株式目録(一)記載の一万三五二〇株を、同じく参加人大須賀三郎に対し別紙株式目録(二)記載の一万株をいずれも一株当り五五円で譲渡するように通知し、右書面はその頃原告に到達し、また、右参加人片倉および大須賀も原告藤ノ木に対し、右代理委員会と原告藤ノ木との右契約に基づく通知に対し、同月二六日付書面を以つて右所有株を各買受ける旨の意思表示をし、右書面はその頃原告に到達した(以上の事実中、原告藤ノ木が被告会社を退職し、原告所有の株式につき株主代理委員会から原告藤ノ木に対し参加人らを譲受人として指名し、右参加人らが原告に対し右株式の買受の意思表示をしたことは当事者間に争いがない)。

右認定に牴触する原告本人の供述部分は措信できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  右事実によると、右株主代理委員会と原告藤ノ木間の前記徒業員持株の譲渡契約は、いわゆる第三者のためにする契約にあたるから、参加人片倉および大須賀の買受けの意思表示によつて、原告藤ノ木はその所有株式二万三五二〇株を、参加人片倉に対し別紙目録(一)記載の一万三五二〇株、参加人大須賀に対し別紙目録(二)記載の一万株を各一株当り五五円の割合で譲渡したといわざるをえない。ところで、原告藤ノ木は、前記契約は株主代理委員会には権利能力および行為能力がないから無効である旨主張するが右委員会の目的および構成からみると、右代理委員会はいわゆる「権利能力なき社団]であると判断することができるからその主張は採用できない。また、原告藤ノ木は、右契約は商法二〇四条所定の株式譲渡の自由に反するものであるから無効である旨主張するが、右条文は当事者間の個々的債権契約の効力まで否定するものではないと解すべきであるから、右代理委員会と原告藤ノ木間における右契約による株式譲渡の効力が否定される理由はなく右主張も採用できない。

したがつて、原告藤ノ木は前記契約に基づき、参加人片倉に対し被告会社の別紙目録(一)記載の一万三五二〇株の株券を、また、参加人大須賀に対し被告会社の別紙目録(二)記載の一万株の株券を各引渡すべき義務がある。

三(新株の帰属に関する判断)

(一)  〈証拠〉によると、原告藤ノ木が前記契約に基づく所有株式の株券の引渡を拒んだために、参加人両名が被告会社に対し株主名簿の名義書換請求をすることのできない間に、被告会社は昭和四五年四月三〇日開通の取締役会の増資決定に基づき、原告藤ノ木に対してその名義株式二万三五二〇株につき新株一万五六八〇株の割当通知をしたので、原告藤ノ木において右申込および払込みを了したこと(以上の事実は当事者に争いがない)、しかし、右新株の株券発行の段階に至り、右株主代理委員会から被告会社に対し、新株割当のもととなつた右旧株は従業員株であつて、割当当時は既に参加人両名に前述のとおり譲渡されており、原告藤ノ木が新株の割当を受ける理由がない旨の通知がなされたため、被告会社は原告藤ノ木に対し右新株の株券交付を拒絶するに至つたこと、他方、参加人両名は原告藤ノ木に対し前記第二当事者の主張2の参加人らの請求原因一、(一)に記載のとおり、原告藤ノ木が受領を拒絶するため旧株の譲受代金および新株の払込代金を弁済供託したことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

ところで、株式を譲受けた者がその名義書換をしないうちに新株発行の決議がなされて、株主名簿上の株主にその割当がなされた場合において、その新株引受権が実質上の株式譲受人に帰属するのか、または株式譲渡人に帰属するのかについては争いのあるところであるが、会社が株主に増資新株の引受権を与えるのは会社の実質上の構成員である株主の利益を図るためであり、すでに実質上会社構成員から離脱した株主名簿上の株主の利益を図るものではないから、会社が一定日時の株主名簿上の株主に新株引受権を割当ても、それは単に会社の新株発行手続の簡素化を図り、その結果について会社に免責的効力を受けさせ、爾後の解決を譲受人と譲渡人間の処置にまかせようとするに過ぎないものである。したがつて、この段階においては、会社は、名義書換をしない譲受人たる株主を新株引受権の権利者として認め、他方、株主名簿上の株主たる譲渡人に対し新株引受権の権利の帰属を否定することができると解すべきである。しかし、当該新株につき割当を受けた旧株式譲渡人において、その所定期日内にその申込をし、株金の払込を了し、他方、旧株式譲受人において所定の期日までに新株の申込および払込の手続をなさずして新株の権利を失うに至つた場合においては、旧株式譲受人は旧株式譲渡人に対して右新株の帰属を主張することはできない。この場合においては右新株は旧株式譲渡人に帰属したものと解すべきであるから最早、会社としても旧株式譲受人に対し新株の帰属を認め、旧株式譲渡人に対し新株の帰属を否定することはできないといわざるをえない。

してみると、前記事実によると、旧株譲渡人である原告藤ノ木において本件新株につき所定の期日までに新株の申込および払込を了し、他方、旧株譲受人である参加人両名は本件新株につき所定の期日までに被告会社に新株の申込および払込の手続をしなかつたため、新株に対する権利を失なうに至つたものと認めうるから、本件新株は原告藤ノ木の所有に帰したといわざるをえず、したがつて、被告会社は原告藤ノ木に対し右新株の株券交付の義務がある。

よつて、参加人両名が原告藤ノ木との間において被告会社に対して本件新株の株券引渡請求権を有することの確認請求は理由がない。しかし、原告藤ノ木が被告会社に対し本件新株の株券交付を求める請求は理由がある。

四(原告藤ノ木の株式配当請求に対する判断)

叙上の事実によると、被告会社の本件旧株のうち一万三五二〇株が参加人片倉に帰属し、また、一万株が参加人大須賀に帰属しているが、本件新株一万五六八〇株は原告藤ノ木に帰属していることを認めることができるところ、右新株に対する被告会社の昭和四五年一〇月一日から同年三月三一日間の株式配当金が一株につき三円であること(被告会社の昭和四六年五月二八日定時株主総会の決議による)は当事者間に争いがないから、原告藤ノ木は被告会社に対し本件新株一万五六八〇株の配当金として合計金四万七〇四〇円の支払を求めうるが、そのうち一五パーセントは所得税として差引くことは原告藤ノ木の自認するところであるから、結局原告藤ノ木は被告会社に対し右新株の配当金として金三万九九八四円および、これに対する右被告会社における配当決議後である昭和四六年六月一日から右完済に至るまでの遅延損害金を求めうるところ、株式配当金は商事債務とは解し難いから民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

したがつて、原告藤ノ木の被告会社に対する株式配当金の請求は右限度において理由があるが、その余の部分は理由がなく失当である。

五よつて、原告藤ノ木の被告会社に対する本訴請求中、新株の株券交付請求部分および配当請求の一部は理由があるのでこれを認容するが、その余の配当金請求の部分については理由がないのでこれを棄却することとし、参加人片倉および同大須賀の原告藤ノ木に対する本訴請求中、旧株の交付請求部分は理由があるのでこれを認容するが、被告会社に対する新株の株券交付請求権の存在の確認を求める請求部分については理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法九二条、八九条を適用し、なお、仮執行宣言の申立についてはその必要がないものと認められるからこれを却下することとし、主文のとおり判決する。 (山口和男)

株券目録

一 片倉盛秋譲受分   一万三五二〇株

内訳 五千株券二枚 B38・9号

一千株券三枚 C333・34・35号

五百株券一枚 D33号

拾株券二枚 C326・27号

二 大須賀三郎譲受分  一万株

五千株券一枚 B310号

一千株券五枚 C336・37・38・39・581号

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